東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)71号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの記載内容があること(第二引用例に本願考案の奏する作用効果についての記載ないし示唆があるとの点を除く。)、並びに本願考案と第一引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの相違点があることは原告の認めるところ、原告は、本件審決は、本願考案と第一引用例記載のものとの間のその余の重要な構成上の相違点並びに第二引用例記載のものの作用効果及び本願考案の奏する顕著な作用効果を看過した結果、本願考案を各引用例記載の考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた判断をしたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の主張は、いずれも理由がないものというべきである。
1 構成上の相違点の看過について
前示本願考案の要旨によれば、本願考案の「弁箱」は、止水栓部の上部で、かつ、流出口側に縦方向に位置させて止水栓部と一体に形成する構成であることが認められ、他方、前示原告自認に係る第一引用例の記載内容に成立に争いのない甲第三号証(第一引用例。これが本願考案の実用新案登録出願前に国内において頒布されたものであることは、原告の明らかに争わないところである。)を総合すれば、第一引用例には、逆止弁付止水栓の弁筐について、「図中1(弁筐)は二分割して形成されボルト2により組立てられ」るものである(第一頁第二欄第二行ないし第三行)との図示説明があり(この点は被告の認めるところである。)、かつ、逆止板体15を収容した弁筐部分は、止水栓部の横方向に配設されていることを認めることができるところ、右認定に供した証拠によれば、第一引用例記載のものは、弁筐内の弁室に流体を通断するボールを回動可能に収納し、このボールに流入側及び流出側よりシールリングを流密に接触したボール弁において、流体が流出側より流入側へ逆流するのを防止するようにした逆流防止ボール弁に関するもので、従来からのこの種の弁では、流体の通断と逆流防止を行う場合にボール弁と逆止弁とを並べて配設していたため、これらの弁の取付けスペースを多く必要とし配管構造が大型化し、また、それぞれ別々の二つの弁を必要とするため製作費が高くなる欠点があつたので、これを解消することを目的とし、その実用新案登録請求の範囲の項に記載のとおり一弁筐内の弁室に流体を通断するボールを回動可能に収納し、このボールに流入側および流出側よりシールリングを流密に接触したボール弁において、上記流出側シールリングの他側方の流出路内に逆止板体を回動可能に軸支して、正常な流れの際には前記逆止板体を押し開いて流路を開くとともに、逆流した際には前記逆止板体が上記流出側シールリングの他側面と当接して流路を閉塞するようにしたことを特徴とする」構成を採つたもので、この構成により、一つの弁で流体の通断と逆流防止が確実にできるうえ、ボール弁に逆止弁を一体的に組み込んだようになるので全体の構成がコンパクトとなり取付けスペースも少なくなる等の効果を奏するものであること、そして、前記図面及びその説明は実施例で弁筐を二分割にしたことについては格別の技術的説明もないことを認めることができる。叙上認定したところ(特に、第一引用例記載の考案の目的、解決方法、構成及び作用効果)によると、第一引用例において、弁筐を二分割するかどうかは、その考案の必須の構成をなすものではなく、この点は補修等の便宜等を考慮したものと推測し得るのみで、他に格別の技術的意義を有するものと認めることができず、単なる設計上の問題とみるを相当とし、第一引用例には、止水栓部であるボール弁と逆止弁である逆止板体を収容した弁箱(弁筐)とを一体に構成する技術的思想が開示又は示唆されているものとみるべきである。
そうすると、本願考案と第一引用例記載のものとの間に逆止弁を収容した弁箱(弁筐)を止水栓部と一体に形成する技術的思想において相違するところはないから、本件審決がこの点を相違点としなかつたことは正当であつて、本件審決が本願考案と第一引用例との間の右相違点を看過した旨の原告の主張は採用することができない。この点に関し、原告は、第一引用例には別個独立配置のボール弁と逆止板体を組み合わせるという独立体の組合せという技術的思想が示されているにすぎない等るる主張するが、右主張は前示の設計上の問題に属する事項を根拠にするものであつて、前認定説示に照らし採用するに由ない。また、原告は、本願考案の弁箱を一体形成する構成は、それにより止水栓全体の長さを短くする等格別の作用効果を奏するものであるうえ、弁箱を止水栓部の上部で、かつ、流出口側に縦方向に位置させることにより、逆止弁と止水栓部を上下方向に配設する構成を生み出すためであるところ、第一引用例記載のものはそのような作用効果を奏するものではなく、また、止水栓部と逆止弁部は必然的に横方向に配設されざるを得ないもので、両者を同一視することはできない旨主張するから、この点につき検討するに、前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)、第五号証(昭和五七年五月一七日付手続補正書)及び第六号証(昭和五七年九月二四日付手続補正書)を総合すると、本願考案は、被告主張の<1>ないし<3>の作用効果を奏するものであるところ、右の効果は、弁箱内にスリーブ状の弁体とボール状の弁部を収容した逆止弁を止水栓部の上部で、かつ、流出口側に縦方向に位置させ、一体に形成した構成によるものと認められるが、本願考案の右のような構成の逆止弁を縦方向に位置させた構成は第一引用例記載のものにはなく、この構成は、第二引用例(これが本願考案の実用新案登録出願前に日本国内に頒布されたものであることは、原告の明らかに争わないところである。)に示されているものとして、本件審決が認定し、引用したものであることは、前示本件審決理由の要点に照らし明らかであるから、本願考案と第一引用例記載のものとか作用効果を異にすることは当然のことというべきであつて、原告の右主張は、本件審決の認定判断を誤解したことに基因するものというほかなく、採用することができない。なお、原告主張の水道配管から止水栓を取り外すことなく弁箱内での補修ができ、また、接続用部材が不要で、止水用のOリング又はボルトなどを必要とせず全体が安定したものとなるとの効果についても、右前段の効果は本願発明の要旨の構成に基づく効果と認めることができず、単に、設計上の選択的事項に属する効果にすぎないものというべく、また、後段の効果は本願考案の明細書(前掲甲第二号証、第五号証及び第六号証)に記載されていない効果であつて、いずれも採用の限りでない。
2 第二引用例記載のもの及び本願考案の作用効果の誤認について
原告は、第二引用例にその主張の作用効果について何らの記載もない旨主張するが、前示本件審決理由の要点によると、本件審決は、本願考案の要旨記載の構成の逆止弁は第二引用例に示されており、本願考案の明細書において、右構成の逆止弁によつて奏されるものと記載されている作用効果が第二引用例にすべて記載ないし示唆されているものと認定判断していることは明らかであり、原告主張のように逆止弁付止水栓としての作用効果を認定判断したものではなく、逆止弁付止水栓としての構成については、第一引用例及び第二引用例記載の考案から極めて容易に想到することができるものとし、したがつて、その作用効果については、予測し得る程度のものと判断したものとみるべきである。そして、原告の認める前示第二引用例の記載内容に成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)を総合すると、第二引用例には前示本願考案の要旨記載の構成の逆止弁が示されていることは明らかであり、逆止弁として本願考案の逆止弁と同様の機能及び作用効果を奏するものと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はないから、本件審決のこの点の認定判断に誤りはなく、したがつて、原告の叙上主張は採用することができない。なお、原告は、第二引用例は、本願考案の属する水道配管技術と無関係な技術分野に属する「ポンプ」に使用される遊合ボールバルブに関するものであるから、引用例として適切でない旨主張するが、ポンプは水道配管等に水等を給送するために常用されており、水道配管とは極めて近接した技術分野に属するものであり、しかも、第二引用例記載の遊合ボールバルブはポンプに特有のものではなく、流体機械全般に使用されるものであることは顕著な事実であるから、第二引用例が引用例として不適当なものとする原告の右主張は採用するに由ない。次に、原告は、第一引用例記載の逆止弁付止水栓における逆止弁部の構成に代えて第二引用例記載の遊合ボールバルブの構成を採用しても、本願考案の構成となり得ない旨主張するから、検討するに、前認定のとおりの逆止弁を収容した弁筐を止水栓部と一体に形成する技術的構成を有する第一引用例記載の逆止弁付止水栓の逆止弁に代えて、前認定のとおりの本願考案の逆止弁とその構成を同じくする遊合ボールバルブを採用する場合、逆止弁と止水栓部との配置は逆止弁を止水栓部の上部方向に置かざるを得ないことは、前認定の第二引用例記載の逆止弁の構成、機能及び作用効果に照らし、技術常識というべく、この際その組合せ全体の構成をコンパクトとし、取付けスペースを少なくするようにすることは第一引用例にも示されている技術的思想であり、しかも、前認定の本願考案の作用効果も格別のものと認め得ないから、本願考案の構成は、第一引用例及び第二引用例記載の考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものというべきである。なお、原告は、第二引用例の逆止弁の構成を採用できるとしても、当業者としては、第二引用例の流入口14に第一引用例の止水栓の流出口3を接続させる横方向の構成を考えるにとどまる旨主張する。しかし、逆止弁付止水栓の構成において、外形をコンパクトにする技術的思想がみられることは、上叙のとおりであるうえ、当業者としては、第一引用例及び第二引用例記載のものを組み合わすに当たつては、それぞれに開示された技術的思想及びその構成が有する技術的意義を基礎とし、技術的に意義のない部分は捨象して合理的効率的な組合せを考慮することは技術常識上当然のことであるから、殊更、実施例として図示された水路部分やフランジを残したまま第一引用例の止水栓部の横方向に第二引用例の逆止弁を単純に結合して横長の構成とするものとは到底考えられず、また、第一引用例に図示された止水栓のハンドル11は止水栓部の上方に取り付けられている(前掲甲第三号証によれば、右ハンドルの位置は図示された位置に特定されるものとは認められない。)けれども、その取付位置を本願考案の実施例のハンドル13のように前方に変更するようなことも必要に応じてなし得る単なる設計変更にすぎないものというべく、したがつて、原告のこの点の主張は、採用することができない。また、原告は、第一引用例記載のものの逆止弁部の構成に代えて第二引用例記載のものを採用しても、本願考案と同様の作用効果を奏し得ない旨主張するが、前説示のとおり第一引用例及び第二引用例記載の考案を組み合わせることにより本願考案の構成を極めて容易に考案し得ることができ、その作用効果も予測し得る程度のものとみられるから、原告の右主張も、採用する限りでない。
(結論)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
流入口と流出口との間に逆止弁と止水栓部とを備えた止水栓において、流入口側に外部からハンドルにより開閉操作ができる止水栓部を設け、該止水栓部の上部で且つ流出口側に縦方向に位置させて弁箱を一体に形成し、該弁箱内にスリーブ状の弁体とボール状の弁部とからなる逆止弁を設け、この逆止弁と前記止水栓部とが上下方向に配設されたことを特徴とする逆止弁付止水栓。(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
別紙画面(二)
<省略>
(以下省略)